われわれは、ものが見えるということに何の疑問も持つことがない。しかし、疑問を差し挟むなら、例えば、眼球網膜に "倒立して結ばれた像" が、なぜ "直立像" として意識/認識されるのか? についてだって不思議と言えば不思議である。
その結果は失念してしまったが、この謎を解こうとして、長年、逆立ちの生活をしてみたという人の話があった。
いずれにしても、人間の "視覚情報処理" は、"眼球、視神経" などという "入力デバイス" だけで完結しているわけではなく、"大脳(皮質)" によるいわば "画像処理" 加工が為されることによって "見えるという知覚意識" に結実するようである。
ただ、この"大脳(皮質)" によるいわば "画像処理" 加工については、未解明な点も残されおり、とくに、"入力デバイス" のレベルでの "視覚情報" が、どのようにして "見えるという知覚意識" にのぼるのか、といった多少 "哲学的" 議論( c.f. クオリア?)のような問題も残されていたと言う。
下記引用サイト記事【 引用記事 1 】:視覚情報:大脳皮質で受け視床枕で処理...産総研で解明/毎日jp/2013.05.13 では、こうした問題、つまり、
<目から入った情報を「確かに分かった」と意識する役割を、大脳の奥深くにある視床枕(ししょうちん)が果たしていること/ 視覚情報の処理は、いったん大脳皮質が情報を受け取り、その情報を視床枕が処理することによって「分かった」と意識する2段階の仕組みになっていること> が突きとめられたと報じている。
下記引用サイト記事【 引用記事 2 】:知覚意識を支える神経メカニズムを解明 ─ 視床枕に「コレ、分かった!」の脳活動を発見 ─/科学技術振興機構(JST)/2013.05.03 は、【 引用記事 1 】のニュース・ソースに位置する記事である。
ここでは、キーワードとしての<確信度> という言葉が使われてさらに詳細な解説がなされている。
<知覚意識を支える上で不可欠な「確信度 注1)」という信号が、視床枕注2)という脳領域で、計算されていること/ 視床枕の活動が、目の前で見えている世界の主観的な確からしさ(知覚の確信度)に影響を及ぼすこと/ 見えているという知覚意識が成立するためには、色や動きなどの知覚の内容が形成される以外に、その内容を「確かに理解している」という主観的な情報が付与される過程を必要とすること>
客観的な "視覚情報" が "見えるという知覚意識" へと変換されるに当って、"主観的な情報/主観的な確からしさ(知覚の確信度)" が加わるというプロセスが、何とも興味深い......。
【 引用記事 1 】
視覚情報:大脳皮質で受け視床枕で処理...産総研で解明/毎日jp/2013.05.13
目から入った情報を「確かに分かった」と意識する役割を、大脳の奥深くにある視床枕(ししょうちん)が果たしていることを産業技術総合研究所(茨城県つくば市)の小村豊主任研究員らのチームが見つけ、12日付の英科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス」(電子版)に発表する。脳が視覚情報をどのように処理しているかを解明する一歩になりそうだ。視床枕は、哺乳類だけが持ち、ヒトなど高等になるほど大きい。チームは、サルに多数の赤と緑の丸い図が動く映像を見せ、視床枕の活動を測定した。動きがあいまいになるほどサルの判別能力が落ち、視床枕の神経細胞の活動も鈍くなった。
視覚情報は、大脳の表面にある大脳皮質が受け取っていることは知られていた。一方、大脳皮質が傷ついても何かが存在すると捉えられる「盲視(もうし)」という障害や、大脳皮質に異常がなくても視床枕の片方を損傷した人が視野の半分を認識できない現象が知られていた。
チームは実験結果などから、視覚情報の処理は、いったん大脳皮質が情報を受け取り、その情報を視床枕が処理することによって「分かった」と意識する2段階の仕組みになっていると結論づけた。【相良美成】
【 引用記事 2 】
知覚意識を支える神経メカニズムを解明 ─ 視床枕に「コレ、分かった!」の脳活動を発見 ─/科学技術振興機構(JST)/2013.05.03
<ポ イ ン ト>
○ 脳の深部にある視床枕という領域は、進化の過程でめざましく拡大してきたが、その果たす機能はこれまで大きな謎であった。
○ 本研究により、視床枕の神経活動は、私たちの意識している知覚に伴う「外界を確かに理解している」という主観に影響することが分かった。
○ 今後、人工知能への応用や、さまざまな意識障害の病態解明への貢献が期待される。JST 課題達成型基礎研究の一環として、産業技術総合研究所の小村 豊 主任研究員らは、知覚意識を支える上で不可欠な「確信度 注1)」という信号が、視床枕注2)という脳領域で、計算されていることを発見しました。視床枕は、マウスなどのげっ歯類には存在せず、霊長類の脳では大きな容積を占めていること、回路としては大脳皮質 注3)のなかでも視覚系皮質領域と密接に結合していることは知られていましたが、その働きや意義については不明でした。
本研究では、霊長類のモデル動物(サル)に、行動心理学的手法(損得の幅が大きい選択肢を選ぶか、回避するかの行動選択によって自信の程を評価する方法)を適用して、神経活動の振る舞いおよび視床枕を働かなくさせた場合の行動変化を調べました。その結果、視床枕の活動が、目の前で見えている世界の主観的な確からしさ(知覚の確信度)に影響を及ぼすことを明らかにしました。
今後、盲視 注4)や妄想など、あるタイプの意識障害の病態メカニズム解明や、コンピュータービジョン 注5)など、人工知能への応用に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2013年5月12日(英国時間)に英国科学誌「Nature Neuroscience」のオンライン速報版で公開されます。
注1) 確信度
主観的な確からしさ。例えば、ある刺激が見えたか、見えなかったかというテストをした場合に、"絶対に見えた"、"おそらく見えた"、"見えたかどうか分からない"というように、ある事象をどのくらい確からしく感じるか程度の差が生まれる。
注2) 視床枕
脳深部に左右一対ずつある領域。一般的に、右(左)の視床枕には、左(右)視野からの視覚情報が入力される。げっ歯類の脳には存在せず進化の過程で拡大し、霊長類の視床の最大容積を占める。
注3) 大脳皮質
大脳の表面を覆い、神経細胞が層状に集まっている領域。機能によって、運動皮質、感覚皮質などに分類され、感覚皮質のなかでも処理する感覚種によって、視覚系領域や聴覚系領域などに細分化される。
注4) 盲視
1973年に、ワイクスランツによって報告された症例。第一次視覚野が損傷された患者が、見えているという意識を持たないにも関わらず、当てずっぽうでもよいから視覚弁別するように求めると、正しく答えてしまう。
注5) コンピュータービジョン
コンピューターに取り込んだ画像から、外界の状況を推定する技術。ロボットが実世界を認識するために用いられる。<研究の背景と経緯>
私たちの日常生活は、周りの世界を認識して、次の行動を決定していくというサイクルの繰り返しです。
例えば、車を運転して信号機に近づいた時に、青であればゴー、赤であればストップという行動を選択します。しかし大雨が降っていて、信号の色が青か赤か判別しにくい場合、私たちは、ゴーかストップかという選択をやめて、一旦車を道の脇に寄せて様子を見るでしょう。
このような判断をする時に、脳のなかでは何が起こっているのでしょうか(図1 上)。
まず、目から入った視覚情報は第一次視覚野に到達し、中次視覚野にかけて、色や動きなどの視覚特徴の分析が進みます。この後、高次視覚野にかけて、これらの特徴が統合されて、私たちが見ている内容が形成されていくと考えられています。
しかし視覚情報が私たちの意識にのぼる際には、これだけでは不十分で、統合された視覚情報がどのくらい確からしいかを計算する過程を経ていることが、近年の研究で示唆されています。
例えば、盲視という知覚意識の障害を持った人がいます。その人に、ある視覚刺激を提示すると、本人は「見えていない」というにも関わらず、その内容(色や動きなど)を弁別する課題を行ってもらうと、決して偶然ではないレベルで、正しい成績を残すことが知られています。
このことは、見えているという知覚意識が成立するためには、色や動きなどの知覚の内容が形成される以外に、その内容を「確かに理解している」という主観的な情報が付与される過程を必要とすることを示しています(図1 下)。
しかし、その主観的な確からしさを計算する脳内メカニズムについては、ほとんど分かっていませんでした。<参考図>
以下、省略。
図1 視覚情報が、意識にのぼるまでの過程
目から入った視覚情報は、脳のなかで、まず、A)色や動きなどの特徴ごとに分析されます。そのあと、B)特徴が統合され、知覚の内容が形成される過程と、C)知覚の確からしさを計算する過程を経て知覚意識が成立し、我々は適切な行動を選択しようとします。盲視の場合、知覚の内容は保たれるものの、C)の過程が損なわれているために、知覚意識は成立しないと考えられます。
( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛しています。)
以上のような人間の "視覚情報処理" における 「コレ、分かった!」の脳活動 は、興味津々であるが、こうした "脳のメカニズム" は、物事が「分かる!」( 理解! 腑に落ちる! )というより汎用的な脳活動の問題にも示唆的かと思われる...... (2013.05.15)
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