"認知症" の半数以上(7割)を占めるとも言われる "アルツハイマー型認知症" については、当誌でも、かねてより関連記事をフォローし続けてきた。
◆ 参照 最新関連記事
○ アルツハイマー病の原因物質を短時間で検出する技術開発(早大)!病気早期発見に期待!/当誌 2014.03.28
"アルツハイマー型認知症" の治療の主眼は "いかに発症程度を抑制し、症状進行を遅らせるか......" にあり 現状では、"根治治療法" は無い、とされている。それだけに、"新たな薬剤開発" への期待は決して小さくない。
今回注目する記事は、そうした期待が託された "新たな薬剤開発" に挑み、しかも "患者由来のiPS細胞から分化させた神経細胞" を用いるアプローチによる研究! ということだけに注目される。
下記引用サイト記事 : 富士フイルムと京都大学iPS細胞研究所 患者由来iPS細胞を用いてアルツハイマー型認知症治療薬「T-817MA」に関する共同研究を開始/FUJIFILM/2014.03.27 がその記事であり、概要は次のとおりとなる。
<富士フイルム株式会社(社長:中嶋 成博)と京都大学iPS細胞研究所(所長:山中 伸弥、以下CiRA)は、患者由来のiPS細胞を用いてアルツハイマー型認知症治療薬「T-817MA」に関する共同研究を、3月より開始しました。本研究は、iPS細胞を用いて「T-817MA」の有効性を予測するバイオマーカーの特定を目指すなど全く新しい新薬開発へのアプローチであり、アルツハイマー型認知症治療薬の開発を加速させるもの/ 今回、CiRAの解明結果を活用して、富士フイルムとCiRAは、アルツハイマー型認知症患者由来のiPS細胞から分化誘導させた神経細胞を用いて、「T-817MA」の有効性を予測するバイオマーカーの特定やアルツハイマー型認知症患者の治療に対する新たな臨床試験の方法の確立を目指す共同研究を行います。また本共同研究では、細胞生育・増殖のための足場である、富士フイルムの「リコンビナントペプチド(RCP)」を用いて、iPS細胞の樹立や神経細胞への分化誘導の効率化に関する検討も実施/ 今回の共同研究は、患者由来iPS細胞を用いて得た培養皿の中のデータを、実際のヒトの臨床試験でのデータに付き合わせて解析することが特長です。患者由来iPS細胞を用いて培養皿の中と実際の臨床試験を直接結びつけることは、これまでになかった新たな研究方法であり、最終的に本方法で患者さんに届くまでの薬剤開発を行うことが可能になる> とある。
注目点はやはり、<今回の共同研究は、患者由来iPS細胞を用いて得た培養皿の中のデータを、実際のヒトの臨床試験でのデータに付き合わせて解析することが特長/患者由来iPS細胞を用いて培養皿の中と実際の臨床試験を直接結びつけることは、これまでになかった新たな研究方法/最終的に本方法で患者さんに届くまでの薬剤開発を行うことが可能になる> という、"新たな研究方法(新たな臨床試験の方法の確立)" 自体を併せて開発する点、であろう。
富士フイルムと京都大学iPS細胞研究所 患者由来iPS細胞を用いてアルツハイマー型認知症治療薬「T-817MA」に関する共同研究を開始/FUJIFILM/2014.03.27
2014年3月27日 富士フイルム株式会社 京都大学iPS細胞研究所
富士フイルム株式会社(社長:中嶋 成博)と京都大学iPS細胞研究所(所長:山中 伸弥、以下CiRA)は、患者由来のiPS細胞(*1)を用いてアルツハイマー型認知症治療薬「T-817MA」に関する共同研究を、3月より開始しました。本研究は、iPS細胞を用いて「T-817MA」の有効性を予測するバイオマーカーの特定を目指すなど全く新しい新薬開発へのアプローチであり、アルツハイマー型認知症治療薬の開発を加速させるものです。
富士フイルムは、グループ会社の富山化学工業株式会社にて、アルツハイマー型認知症の治療薬の研究を進め、強力な神経細胞保護効果(*2)と神経突起伸展促進効果(*3)を有し病態動物モデルでも高い治療効果を示す「T-817MA」を見出しました。現在、米国で「T-817MA」の第II相臨床試験を進めており、バイオマーカー(*4)の解明に取り組んでいます。
またCiRAの研究チームは、患者由来のiPS細胞から分化させた神経細胞でアルツハイマー型認知症における神経細胞死やアミロイドベータ(*5)の分泌などを調査した結果、アルツハイマー型認知症患者の原因遺伝子によってそれらに差があることを解明しています。
今回、CiRAの解明結果を活用して、富士フイルムとCiRAは、アルツハイマー型認知症患者由来のiPS細胞から分化誘導させた神経細胞を用いて、「T-817MA」の有効性を予測するバイオマーカーの特定やアルツハイマー型認知症患者の治療に対する新たな臨床試験の方法の確立を目指す共同研究を行います。(*6)また本共同研究では、細胞生育・増殖のための足場(*7)である、富士フイルムの「リコンビナントペプチド(RCP)」(*8)を用いて、iPS細胞の樹立や神経細胞への分化誘導の効率化に関する検討も実施いたします。
従来iPS細胞を使った創薬研究では、培養皿の中で、ある疾患の患者由来iPS細胞を、疾患の標的になる細胞に分化・誘導し、その細胞を使用して疾患の治療薬となりうる有効成分を見つけ出す研究が行なわれてきました。しかし、これはすべて培養皿の中でのデータ取得に留まります。一方、今回の共同研究は、患者由来iPS細胞を用いて得た培養皿の中のデータを、実際のヒトの臨床試験でのデータに付き合わせて解析することが特長です。患者由来iPS細胞を用いて培養皿の中と実際の臨床試験を直接結びつけることは、これまでになかった新たな研究方法であり、最終的に本方法で患者さんに届くまでの薬剤開発を行うことが可能になると考えています。
*1 iPS細胞(induced pluripotent stem cell)とは、体細胞に特定因子を導入することにより樹立される人工多能性幹細胞。平成18年に山中伸弥教授グループの研究により世界で初めてマウス体細胞を用いて樹立に成功したと報告された。*2 アルツハイマー型認知症などの神経変性疾患では、脳にある特定の神経細胞群(例えば認知機能に関係する神経細胞や運動機能に関係する神経細胞)が徐々に傷害を受け消失してしまう。これら神経細胞を傷害から保護する効果を「神経細胞保護効果」という。
*3 神経細胞は、外部からの刺激やほかの神経細胞から送り出される情報を受け取るために、細胞体から樹木の枝のように複数の突起を分岐している。「T-817MA」はその突起の伸展を促進する効果を示し、この効果を「神経突起伸展促進効果」という。
*4 生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標(マーカー)となるものをバイオマーカーと呼ぶ。
*5 アミロイドベータ(Aβ)とは、40~43個のアミノ酸が連なってできたペプチド(タンパク質断片)。アルツハイマー型認知症では、Aβが凝集して線維状になり、脳に沈着することが昔から良く知られている。
*6 臨床データの解析などについては、筑波大学付属病院 精神神経科 朝田隆教授の協力を得て実施。
*7 再生医療は、人工的に培養した細胞や組織などを用いて損傷した臓器や組織を再生し、患部の機能を回復させる医療技術。再生医療には、(1)分化・増殖して人の組織となる「細胞」、(2)細胞の分化・増殖を誘導する増殖因子などの「サイトカイン」、(3)細胞が正常に生育・増殖するために必要な「足場」が重要な三要素である。
*8 遺伝子工学技術により微生物を用いて人工的に作製したヒト型コラーゲン。
この研究で、"アルツハイマー型認知症治療薬「T-817MA」" の薬効が、どこまで迫るのかは今後を待つほかない。
ただ、<現在、米国で「T-817MA」の第II相臨床試験を進めており、バイオマーカーの解明に取り組んでいます> という叙述もあることから、今後の続報に期待が持てそうである...... (2014.03.29)
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