先日、<"電子書籍(eBook)"への関心は、"自炊"から"セルフ・パブリッシング"へと向かうか? (当日誌 2010.10.09)> という、やや奇妙な視点からの感想を書いた。
要は、"電子書籍(eBook)" という時代現象は、"自炊作業" に象徴される面と、"セルフ・パブリッシング" に象徴される面との二面を持つということなのである。しかも、それらは表裏一体で不可分な関係であるに違いない。
どういうことかと言うと、"電子書籍(eBook)" が否応なく注目される時代環境は、一方でこれらを購入して読んだり、あるいは読むためのプラットフォームとしてのリーダーを入手したりすることが、いとも簡単に進められる環境として整備されてきたということであろう。
さらに、こうした動向と並んで、"電子書籍(eBook)" もどきを "自前・自作" するための、高性能なスキャナーをはじめとしたハード・ソフトなどのIT製品が一般の個々人からも手が届く棚にラインアップされる、そんな時代環境でもあるということだ。また、関連技術的情報にしても、その気になればネットを通じても苦労なく入手できる環境でもあるわけだ。
つまり、こうした技術的リソースの "平準化・一般化" という "技術的環境" があったればこそ、"自前・自作" の "電子書籍(eBook)" もどきを、自身のために仕立て上げる "自炊作業" 派が跋扈(ばっこ)できるようにもなったのであろう。
"自炊作業" 派たち(自分も含め)というのは、こうした "技術的環境" の恩恵を "個人的範囲" で貪欲に享受している姿だと言えそうだ。
ところで、この同じ "技術的環境" は、インターネット環境を通して、単なる技術面を超えた新しい、いわば "ソーシャルな装置" をも形成していたわけである。
今さら、インターネット環境がもたらしたものを縷々述べる必要もないが、 "時空を超えた形で" 人と人との出会いや関係が作り出された点は見過ごせない。
大きく言えば、グローバリゼーション自体がこれ無くしては考えられなかったであろうし、身近なところではツイッター、ブログ、SNSといったソーシャルネットでの人と人との関係可能性も見過ごせないところであろう。
さて、この辺に眼を向けていくと話に収拾がつかないことにもなりかねないので、一点の例だけに留めておきたい。それは、"ロングテール(現象)" と呼ばれてきた興味深い経営事象なのである。
実は、"電子書籍(eBook)" に関するもう一面での関心事、"セルフ・パブリッシング" は、この "ロングテール(現象)" を抜きにしては考えられないと思われる。
一応、ここでこのキーワードについておさらいをしておこう。
<The Long Tail(ロングテール)とは、「あまり売れない商品が、ネット店舗での欠かせない収益源になる」とする考え方。......
べき乗則に従う商品売り上げのグラフを、縦軸を販売数量(population)、横軸を商品名(product)として販売数量順に並べると(右図)、あまり売れない商品が恐竜の尻尾(tail)のように長く伸びる。つまり、販売数量が低い商品のアイテム数が多いということを表す。このグラフの形状から因んで「ロングテール」という。
ロングテールはオンライン小売店の一つであるAmazon.comを例に用いるとわかりやすい。一般的に、ある特定の分野における売り上げは上位の20%が全体の80%を占めるという冪乗の法則(あるいは、20と80に限ってはいないがパレートの法則)に従っているとされている。
今までのオフライン小売店では在庫の制限などでこの上位20%に当たる商品を多く揃えなければならず、その他(80%)は軽視されることが多かった。しかし、Amazon.comなどのオンライン小売店は在庫や物流にかかるコストが従来の小売店と比べて遥かに少ないので今まで見過ごされてきたこの80%をビジネス上に組み込むことが可能になり、そこからの売り上げを集積することにより新たなビジネスモデルを生み出した。そのことを説明する時に使われるのがロングテールである。......>(「ウィキペティア フリー百科事典」)
元来、"本(書籍)" とは、"多品種少量販売" 的商品としか言いようがないものであり、だからこそオンラインショップの "ロングテール(現象)" と親和性が高いわけだ。上の引用にもある<Amazon.com>こそは、 "インターネット(オンライン)時代環境" と "本(書籍)販売" 事業とを見事に結びつけたのであり、その経営発想の根底に "ロングテール(現象)" を凝視する視点がしっかりとあったわけだ。
だからそれを真似して "ロングテール(現象)" 志向で "セルフ・パブリッシング" を! と単純に言うつもりではない。
と言うよりも、"セルフ・パブリッシング" の企てとは、 "ロングテール" を持つ "恐竜" を父とする "嫡子(ちゃくし)" 以外の何ものでもないと思える。母親は "中抜き低コスト志向" だとでも言っておこうか......。
何よりも、この広い世界を相手に、自分が書いた "本" に興味を示してくれるような希少価値の "読み手" を "待つ" 方法としては、この "ロングテール(現象)" のようにでしかなかろう。"紙" 書籍の出版における経済論的視点では到底許されないからである。
と言っても、 "悲観論" で言っているのではない。それでいいのである。"本(書籍)" とは、元来が「一期一会(いちごいちえ)」的な性格を持つもの、持たざるを得ないものなのではなかろうか。いわゆる "ベストセラー" という現象なんぞは、"商業的偽作現象(虚構! バイアグラ?)" なのでは......。
"セルフ・パブリッシング" 派こそが、迷い込んだ "迷路" の樹海から "本(書籍)" たちを救い出し、出版というものを正していく "白馬のナイト(騎士)" なのでは...... (2010.10.13)
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