今日では "知識や教材" は、その気がありさえすれば "溢れ返って" いる! したがって学習する者にとってむしろ問題なのは、それらをどう "取捨選択" して "より効果的なアプローチ" をするかとなっているはずだ。
また教育側としても、そうしたアプローチを可能とするようなカリキュラム(コース)をどう構成するかであるに違いない。
現代のような "情報過多" 環境における学習・教育の基本的課題はそんなところに潜んでいるはずだと思われる。
"溢れ返って" いる!というのは、書籍・マスメディア・インターネットなどに限らず "Social" メディア上の知識・情報も含まれる時代だということだ。YouTubeなどが好例であろう。
しかし、今やその質量は手に余るほどに膨れ上がってるのが悩ましい点! そこで注目されているのが、いわゆる "キュレーション"(編集)の視点だと言える。簡単に言えば、"交通整理" であり、"お見立て" である。まあ、"信頼し得る" という条件付ではあるが。
◆参照 情報過多の時代の鍵"キュレーション"で問われるのは"メタ鍵"としての編集能力!( 当誌 2011.09.01 )/"キュレーション"への佐々木俊尚氏の熱い眼差し!"編集" に関する松岡正剛氏!( 当誌 2011.09.02 )
教育側にとってもう一つ悩ましい問題は、学習ニーズの多様化や急速に変化する時代環境が、"教材制作" に時間的ゆとりを与えていない! という実情ではないかと思われる。より "スピーディーな対応" が求められているというわけだ。
こうした現代特有のシビァな課題に応えるかたちで、<YouTubeなど既存の教材から学習コースを組み立てる>というアイディアを実践しているのが、今回の下記引用サイト記事:「YouTubeなど既存の教材から学習コースを組み立てるCourse Heroに一流投資家たちが殺到」/TechCrunch/2012.04.13 である。
思わず "お見事!" とガッテンしてしまうほどに優れた発想の "スタート・アップ(新ビジネス)" だと感心させられた。
YouTubeなど既存の教材から学習コースを組み立てるCourse Heroに一流投資家たちが殺到
その気になれば、YouTubeで何でも学べる。ただしその、数百万本ものビデオの中から、良い"教材"を見つけ出すのがたいへんな作業だ。でもこれからは、そのたいへんな作業をCourse Heroがやってくれる。YouTubeなどの上の良質な教育的ビデオをピックアップして、それらを基に、さまざまなコース(課程)ないしクラス(教室)を提供するのだ。この教育スタートアップが新たに立ち上げたコース部門には今、「起業」、「事業計画」、「Webプログラミング」という3つのコースがある。なおCourse Heroはほかにも、クラウドソース(crowdsourced, ユーザが作成する)な学習ガイドや個人指導、フラッシュカードなどを提供している。
Khan AcademyもCodecademyもたしかに立派だが、でも教材を自作しているのでコース/クラスの多様化を急速には行えない。これに対しCourse Heroは、YouTubeやそのほかの公開教材を利用することによって、ユーザが望むどんな教科にも対応しようとしている。しかも単にコースを勉強するだけでなく、たとえばCourse Heroの起業家コースを終了した者は事業計画のコンテストに参加でき、その優勝者はCourse Heroの投資家であるRon Conway(SV Angel)にプランを売り込める。
たとえば「Webプログラミング」を選んだら、さらにその中の<CSS入門>、<JavaScript>、<HTML>などから科目を選ぶ。「事業計画」なら<マクロ経済入門>、<資産管理>、<マーケティング>などの科目がある。だいたい一つの科目が6コンセプト、一つのコンセプトが6つのチャプター(章)から成り、右の画像でお分かりのように一つのチャプターが複数のYouTube(など)のビデオや記事で構成される。...... Course Heroではいろんな人が作った教材ビデオ(等)が利用される。
Course Heroは、元のビデオや記事が長たらしくて無駄が多いと判断したら、適切に編集をする。各チャプターは、教材を見るだけではなく小テストもあり、そのチャプターの終了試験もあり、さらにコース全体の終了試験もある。そして優等生はバッジをもらえる。だから、けっこう本格的なお勉強であり、学習効果も高い。勉強したいコースをユーザがリクエストしたり、自作することもできる。
Course HeroのCEOで協同ファウンダのAndrew Grauerは曰く、"インターネット上の大学はどんな形になるか、それを模索したかった"。スタンフォードやMITのように、オフラインの講義を単純にオンライン化する取り組みも立派だし、CodecademyやKhan Academyのようなやり方もグレートだ。実際に彼は、Khanのビデオも利用したいと思った。ただし、Grauerが感じた大きな問題点は、コンテンツが大量にあるインターネットの上では、自分の学習目的に合った最適最良なコースを編纂構成するのが、とても難しいことだ。とくに、一歩々々深く、学習を掘り下げていくのが難しい。でもまた同時に昨今は、従来の高額な高等教育の価値や意義が疑問視され、重要な職業技能の習得課程を無料で提供するサービスが、ますます注目され始めている。〔 訳注: オバマ政権の大統領府もCodecademyなどオンライン学習教育サービスの利用を雇用促進事業の一環として進めている。〕
投資家たちも、もちろん注目している。社員22名のCourse Heroはこれまで、238万ドルの資金を調達しているが、出資は...... といった面々だ。Facebookの広告部長Gokul Rajaramが、Course Heroの取締役会の会長だ。
ビジネスモデルも斬新だ。コースとフラッシュカードは無料だが、コミュニティによる個人指導やQ&A、学習案内の作成と入手は有料だ。その'授業料'は月額で40ドル、年払いでは95ドルだ。お金の代わりに自作のコースドキュメンテーションをアップロードしてもよい(とくにドキュメンテーションがまた弱い、という批判がCourse Heroに対してある)。料金も、従来の大学の授業料に比べれば安いが、このサイトの学習者を増やすためにはさらに下げる必要があるだろう。
最近の半年ぐらいのあいだに、たくさんのオンライン学習スタートアップが教育を消費財に変えた。Grauerが投げかける問いは、"その情報をほかのところで入手できる時代に、なぜ1年で4万ドルも払わなければならないのか? 学卒という資格は、借金をしてまで取得する価値のあるものなのか?"、だ。彼は、オンライン教育の次のステップはCourse HeroやThe Minerva Projectのようなものになる、と見ている。すなわち教育は、[○△□大卒]という空しいブランドから解放される。ブランドより知識そのものが重視され、それが起業家精神と成功を育む。Grauerも言う、"教育は受験のためのガリ勉とは無縁なものだ"。
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛を施しています。)
こうした "オンライン学習スタートアップ" の動向が、既存の教育機関の旧態依然ぶりを揺さぶることは目に見えていそうだ。ただし、この動向の前提となっている "YouTubeやそのほかの公開教材を利用" しての "キュレーション" の実施が、相応に難易度が高いものであろうことは想定されるべきだろう...... (2012.04.18)
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