"消費税10%" 云々という争点が、にわかに浮上し始めている今回の "参院選" 状況である。緊急度を高めつつある "財政再建" 問題を視野に入れるならば、何がしかの "必然性" を感じないわけではない。
が、もう一方で、 "物事には文脈と順序というものがある" わけで、この "参院選" で "消費税" 問題を短兵急に "争点化" する必要性がどこまであったのか......、という "釈然としない気分" が漂うのも事実だろう。今少し、 "巧みな(?)政権運用" というスタイルがあっても悪くはなかったような気がするのである。こう言っては何だが、菅首相の "脇の甘さ(?)" とでも言う弱点が飛び出したのであろうか......。
が、 "消費税" 論議、いや正確には "財政再建" 問題なのであるが、もはや一刻の猶予も許されてはいない! と認識した方が良さそうな気配である。逆に言えば、 "借金大国(巨額の国債垂流し国)" がこのままで "ダイジョブだぁ~" と言える根拠は次第に希薄となり、危うくなり始めていそうだからである。
"ガラパゴス" 的閉塞感覚を払拭して、グローバルな同時代環境を注意深く観察して行かなければ取り返しのつかないことにもなりかねない......。
そんな警戒心を刺激した番組が、<NHKスペシャル『狙われた国債 ~ギリシャ発・世界への衝撃~』>であった。
< ギリシャの財政破綻問題を機に、一気に吹き出した"国債"の危機。それはギリシャだけの問題でもヨーロッパだけの問題でもない。マネー資本主義に成長を委ねざるを得ない世界経済の根本が、今まさに問われている。
2年前大手投資銀行リーマンブラザーズの破綻で始まった金融危機。奈落の底に落ちるのを防ぐため世界の国々は巨額の公的資金をつぎ込み、そのリスクを「国家のリスク」として引き受けた。しかしそれによって蘇ったマネーは今、あろうことかその「国家のリスク」を揺さぶり、巨額の利益を引き出し始めている。
CDSと呼ばれる複雑な金融商品も操りながら行われる、国債へのマネーの攻撃。ギリシャだけでなくポルトガル、スペインといった同じユーロを通貨とし、深刻な財政赤字を抱える国々は危機感を募らせている。巨額の国債発行に財政を依存する日本もこの問題と無縁ではない。
震源となったギリシャ、対策に奔走するドイツやEU各国、ニューヨーク・ウォール街のヘッジファンドなど現場を同時進行で追いながら、問題の本質と、我々が直面する危険な状況を明らかにしていく。(キャスター・松平定知)>(NHKスペシャル『狙われた国債 ~ギリシャ発・世界への衝撃~』/NHKオンライン/2010年7月2日(金))
結論から先に言えば、 "マネー資本主義(ヘッジファンドの横行)" というマネーのためなら "何でもアリ" の金融経済世界にあっては、安全らしきどんな根拠をもってしても、"ダイジョブだぁ~" という楽観論は成り立ちにくい、と見えてならない。
同番組の末尾は次のような不安に満ちた言葉で結ばれていた。
<......ヘッジファンドは大きな借金を抱えている国をターゲットにいたします。そうなると、さあ日本はどうなるかということですね。
日本は先進国で最大の借金国でございます。国と地方を合わせて860兆円を超える借金を持っている。まぁしかし、それを上回る貯蓄が今のところあるから大丈夫だとか、今その国債はほとんど日本国内で賄われているから大丈夫なんだという声がありますけども、今後少子化が進んで、貯蓄率が下がった場合にはですね、その国債の買い手を海外に求めるという事態も起こらないとは限らない。
マネー資本主義が国債をターゲットにするという新しいステージに立つわけで、日本がその危機に晒されないという保証はどこにもないのでございます。事実、私たちは今回の取材を通してですね日本の国債をターゲットに具体的な戦略を練り始めたヘッジファンドに会いました。
このマネーをめぐる動きは今後もしっかりと見つめてゆかねばいかんと、そういうふうに思っています。>(同番組ラストでのキャスターによる結び)
番組は<マネー資本主義が国債をターゲットにするという新しいステージ>を追跡レポートしていたのである。そして、世界の金融経済を何度も危機に陥れてきた "ヘッジファンド" は今、 "ハゲタカ" のごとくマネー収奪のために各国の "国債" (国家財政の資金源)を虎視眈々と狙っているというのである。財政難に陥っている各国の "国債" が、"商売" のターゲットになることを確信し始めているというのである。
これまでにも、当日誌ではこの辺の事情と推移に警戒してきたつもりである。
◆ 当日誌「ギリシャ危機に酷似する日本の財政赤字/事業仕分けからバラマキ策緊急停止へ!」(2010年5月24日)
◆ 当日誌「"一気に"広がり得る金融危機/6日米株式市場急落時の新事実/日本の国債神話は?」(2010年5月16日)
◆ 当日誌「気になる用語、 "ソブリン(sovereign)リスク" に "デフォルト(default)"」(2010年2月 9日)
ちなみに、財政難に陥った各国の "国債" が "狙われる根拠" について、同番組に沿っておさらいをしておく。
"CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)" という金融商品がある。
なお、今注目すべきは "国債CDS" であり、国の借金が返済されない場合に備えていわば保険をかけるようなものと理解できる。
国債購入の投資家は金融機関などに保証料(=CDS価格)を払って借金の保証人になってもらい、国の財政が破綻し返済されない場合には、金融機関などに返済を肩代わりしてもらう、というわけだ。
ところで、借り手である国の信用が低下すると、保証料(=CDS価格)は上がる。CDS価格が上昇することになる。また、このCDSは金融商品として市場で取引されているので価格は常に変動することにもなる。
そして、国債とCDS価格との関係はシーソーにもたとえられる。国債の信用力が落ちるとCDS価格は上昇し、CDS価格が上昇すると、結果的に国債の価格の下落を招くという関係である。ドロ沼的な "悪循環" が突き進むことになるわけだ。
こうした読みで国債に狙いをつけたヘッジファンドは、去年秋ギリシャが巨額の財政赤字を発表した時、ギリシヤ国債のCDSが値上がりすると見込んで大量に買い込んだ。そして、その後ギリシヤの国債は急激に値下がりし、CDSの価格は思惑通り上昇して行くことになった。そこで、ヘッジファンドはCDSを高値で売り抜けおよそ40%の利益を手にしたというのである。 "悪循環" に付け入る巧妙な取引だったようだ。
さらに、ヘッジファンドは値下がりした国債でも、 "空売り" (値下がり前での "売り注文" と、値下がり後の "買い注文" との間の "利ざや" を稼ぐ手法!)という取引手法を用いて大きな利益を上げていたのだと見られている。
こうした推移を振り返るならば、 "国債" が "CDS" や "空売り" の取引の対象と見据えられる環境になってしまったことで、もはや "国債は安定した金融資産" という従来の常識が覆されてしまったというわけなのである。
日本の現状をシビァに見つめる時、<それを上回る貯蓄が今のところあるから大丈夫だとか、今その国債はほとんど日本国内で賄われているから大丈夫なんだという声がありますけども、今後少子化が進んで、貯蓄率が下がった場合にはですね、その国債の買い手を海外に求めるという事態も起こらないとは限らない。>(上記)という、決して蓋然性が低くない事態をしっかりと視野に入れておかなければならないのではなかろうか。さもなくば、 "巨額借金国家" の日本は、ひょんなアクシデントをきっかけにして、世界の "ハゲタカ・ヘッジファンド" の猛威に晒されてしまう ...... (2010.07.05)
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